2023年7月に京阪ホールディングス内で発足した「中之島線延伸検討委員会」では、中之島線延伸の可否についての検討が行われています。
中之島線延伸に関連する、IR(統合型リゾート)が少しずつ前進したこともあり、2023年には中之島線延伸についての動きがありました…が、進んではいません。
2023年の中之島線延伸の動き
中之島線延伸のそもそも論とか起源とか云々を説明すると非常に長いので省略します。
中之島線の延伸については、「長期経営戦略」および「京阪グループ長期経営戦略・中期経営計画の策定について」(2023年3月30日公開分)で、
2030年以降の将来を見据えて、実現に向けた検討を深化
としています。
また、2023年7月3日の産経新聞の取材で、「中之島線延伸検討委員会」が京阪ホールディングス内で発足したことが判明しています(2023年7月1日付発足)。
「中之島線延伸検討委員会」では、中之島駅から九条駅への延伸を検討するとして、
- 収益面
- 運営方法(「上下分離方式」を想定)
- 九条駅への具体的な接続方法
など、総合的に検討し、2023年度中に結論を出す方針であるとしていました。
しかしながら、2023年12月16日の朝日新聞の報道で、2023年度の延伸可否の決定を見送ることが明らかになっています。
また、延伸についての最終判断を2026年10月以降に行う方針であることが2024年2月23日に明らかになり、2024年4月12日には読売新聞の取材で2030年秋ごろまでの延伸開業を断念したことも判明しています。
何故、延伸可否の結論を見送り?
2023年7月1日に発足した京阪ホールディングスの「中之島線延伸検討委員会」です。当初は2023年度内に結論を出すとしていました。
しかし、2023年度内の延伸可否の決定を見送り、その結論は2026年10月以降に先延ばし、そして目標としていた2030年秋ごろの延伸開業を断念するという結果になったのか…ネックになっているのはIR(統合型リゾート)事業の解除権です。
IRの解除権
IR事業の実施にあたって、大阪府とSPC(特別目的会社、MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスが中心の大阪IR株式会社)の間で、IRに関する基本協定が締結されています。基本協定というのは、簡単に言えば「ちゃんと進めましょうね」というお約束です。また、2023年9月28日に締結した実施協定にも解除権が含まれています。
その基本協定、そして実施協定に解除権が盛り込まれており、大阪府・IR事業者ともに、条件が満たされていれば解除権が有効になるというものです(条件が満たされたかどうかを判断するのは双方の協議次第ですが)。
基本協定・実施協定に記載がある内容を簡単に並べてみました。
大阪府・大阪市の解除権 | SPC(IR事業者)の解除権 |
・SPC側で重大義務違反 ・認定申請同意・債務負担行為の議会議決が得られない ・区域整備計画の認定が失効した場合 |
・府が債務不履行
【事業前提条件に基づく解除】 |
色々と難しい事が書かれていますが、IR事業を進めるにあたって、双方がやることをやっていれば問題無いと言える内容です。
ただし、法律の整備や土地の整備など、国・大阪府・大阪市側が主体で動くべき事項について達成することが困難になった場合(カジノ法案が通らない、カジノ法案が通っても国際競争力を保持することが出来ない法案内容、IR建設予定地が確保出できない、IR建設予定地の土壌がよろしくない…等)、IR事業者側が解除権を発動できるというものです。
IR解除権を規定している理由は大阪府ホームページの「よくある質問」に記載されており、
Q 実施協定において、事業前提条件による事業者の解除権が規定されているのはなぜですか。
IRは日本にこれまでにない初めての事業であり、また、日本最大級となる投資規模等を踏まえると、その実現に向けては、当然、投資環境が整っていることが必要であり、感染症、国の詳細制度設計、夢洲特有の課題等の課題解決が不可欠なため、現在の状況を踏まえ、実施協定においては、事業前提条件に基づく事業者の解除権を付すこととしたものです。―大阪府HP「よくある質問」
と記載があります。
解除権の期限延長
もともと、解除権の期限は2023年9月末でしたが、解除権が3年延長されています。
解除権の延長については「基本協定における解除期限の延長覚書」(2023年7月13日)に記載されており、IR事業の解除権の期限が、「2026年9月末まで」に延長されています。
また、2023年9月28日に締結した実施協定にも、IR事業の解除権の期限が、「2026年9月末まで」と設定されています。
京阪は中之島線を延伸したい、のだが…
検討委員会発足の2週間後に解除権期限が延長
さて、中之島線延伸の話に戻ります。
京阪ホールディングスが2023年7月1日に、IRの解除権の期限が延長される前に「中之島線延伸検討委員会」を発足していますが、それから2週間も経たない2023年7月13日に「基本協定における解除期限の延長覚書」が締結されており、解除権の期限が3年間延長されています。
しかし、大阪府とIR事業者で解除権の期限を3年間延長したことにより、京阪としては「中之島線の延伸可否についての結論が2023年度内に出せなくなった」という状態です。
中之島線の延伸については、夢洲にIRが開業するという前提です。なので、IR事業が実施されるのか不透明な状態では、中之島線の延伸についても難しいため、延伸可否の結論は、延長した解除権の期限(2026年9月)直後の2026年10月に設定した…ということです。
延伸したいが、夢洲のIRは大前提
「延伸はしたいけど、延伸先にランドマークができなければ延伸することはできない」という状況が今の京阪です。
2024年4月12日の読売新聞の取材で、
「延伸したいが、はしごが外される可能性が出てきた。延伸は解除権の見通しが立つのが最低限(の条件)だ」
―読売新聞オンライン「中之島線30年延伸を断念…京阪HD、IR撤退リスク見極め」より引用
と加藤好文・京阪HD会長が述べている通り、京阪側は中之島線延伸の意志があることがわかります。
また、中之島線延伸を念頭に置いて、夢洲方面と京都を結ぶ観光列車の開発も検討していることから、中之島線延伸に合わせて新たな利用客の創出にも力を入れようとしていることが分かります。
中之島駅から九条駅に延伸するだけであれば、お金と時間があれば実現可能です。延伸するだけなら。ですが、IRが夢洲で開業しなければ、延伸したところで利用する人がいないという状況になることは容易に想像することができます。そうなると延伸事業に投資するリターンを得ることが出来ず、国・大阪府・大阪市・京阪の4者ともにマイナスで終わります。
また、延伸事業に伴う建設費の調達も、延伸先にIR施設の様なランドマークがあるかどうかで話が変わります。夢洲に建設されるIR施設の有無で、金融機関からの調達金額や、国・大阪府・大阪市からの補助金も変わって来ますし、開業後の利用者数も段違いになるでしょう。
そうなると、やはり夢洲のIR事業の進展次第で、京阪は中之島線延伸についての可否をどうするか、という判断を常に迫られるということになります。
タイムライン
- 2023.4.14大阪・夢洲地区のIR区域整備計画を認定夢洲の特定複合観光施設区域整備計画を国土交通省が認定
- 2023.7.1京阪HD内で「中之島線延伸検討委員会」が発足2023年度内の結論を出す方針
- 2023.7.13「基本協定における解除期限の延長覚書」(2023年7月13日)IR事業の解除権が2023年9月末から2026年9月末に3年間延長
- 2023.9.28IR関連協定が締結実施協定を含む4協定
- 2023.12.16京阪中之島線における2023年度の延伸可否の決定を見送り「中之島線延伸検討委員会」発足時の目標である2023年度内の結論を先送り
- 2024.2.23京阪中之島線延伸の最終判断を2026年10月以降に見送りIR事業の解除権が3年間延期されたことに伴うもの
- 2024.4.12京阪中之島線における2030年秋ごろまでの延伸開業を断念延伸開業時期を2030年秋以降で再検討
編集後記
そもそも、IRに対する国の判断が亀さんのようにのんびりしてるわね😿🐢
関連リンク
京阪グループ長期経営戦略・中期経営計画の策定について |京阪ホールディングスリリース
大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備関連協定(案)等について|大阪府・大阪市 IR推進局
大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書の概要|大阪府