2010年3月14日に開業した阪急京都線の摂津市駅。
日本初の「カーボン・ニュートラル・ステーション」として、そこそこ注目されましたが、2017年2月28日に、摂津市における都市計画が決定し、2018年2月28日に都市計画事業認可となりました。
高架化の開業は2033年予定のため、摂津市駅は、開業から23年で高架化される予定です。
ところで、一旦は地上駅として開業した摂津市駅は、何故、高架化されることになってしまったのでしょうか?
摂津市駅付近の阪急京都線連続立体交差事業
摂津市駅付近の連続立体交差事業について、当然ですが、事業内容を摂津市が公表しています。
簡潔に言えば、高架化によって、
- 開かずの踏切問題
- 摂津市駅(阪急京都線の敷設区間)による分断
が解消され、摂津市駅付近の更なる発展に繋がるということです。
しかし、「高架化するなら最初から高架駅で作れば良いのに」と思えます。そして、摂津市の連続立体交差事業のページには、地上駅で建設した理由が記されていません。
…というわけで、勝手に調べました。
調査方法
いつものノリであれば、経緯と理由をサクッと述べているところですが、先に言わせて下さい。
摂津市駅設置の調査ですが、ちょっと手間取りました。
プレスリリースレベルの経緯であれば、阪急側の資料を探せば簡単に出てきます。簡単に出てくるのですが、阪急側の資料に摂津市駅設置の経緯は書かれていません。
となると、摂津市側の資料を調べるしかないのですが、いかんせん、検索エンジンで検索しても、なかなか本丸にたどり着けません。逆SEOでもしてるのかというレベルです。
しかし、摂津市議会のページから、「駅前等再開発特別委員会」の会議録を辿ることで摂津市駅設置の経緯が分かります。興味のある方は、是非、頑張って読んでみて下さい。
尚、この会議録、委員会の質疑応答の発言をまるまる記しただけなので、読むのに苦労します(苦労しました)。
摂津市駅設置までの経緯
摂津市駅設置の発端
何を隠そう、摂津市駅設置に関する事の発端は、こいつです。
京成ファンならおなじみの千葉ニュータウン鉄道9100形…ではなく、かつて存在した住宅・都市整備公団です。
2000年12月1日の駅前等再開発特別委員会記録に記されている通り、1996年9月に、住宅・都市整備公団から摂津市に対してアプローチがあり、ダイヘン摂津事業所を中心とした地域のまちづくり構想に関する事前協議が行われました。
当時、摂津市としても、都市計画道路千里丘三島線(道路)と阪急京都線踏切の交通渋滞を課題としていたところで、まさに渡りに船といったところです。
1997年11月に、摂津市、住宅・都市整備公団、ダイヘンによる「南千里丘地区研究会」が発足し、1999年8月に住宅・都市整備公団が「南千里丘地区まちづくり構想」を摂津市に対して提案します。
その際に、
- 阪急京都線との立体交差化に伴う都市計画道路千里丘三島線の拡幅改良整備
- 阪急新駅の設置及び南側駅前広場の設置
- 都市計画道路千里丘三島線と新駅の駅前広場を結ぶアクセス道路の新規整備
の基盤整備方針を設定し、立体交差建設と新駅を設置する前提で、再開発地域をブロックごとに分けた総合的な開発を掲げました。
立体交差建設、つまり高架化だけであれば、阪急は話に乗らないと踏んで、「まちづくりと立体交差・新駅設置」を整備方針に盛り込んだわけです。
これを摂津市が阪急に話を持ち掛けますが、阪急は並行して各種事業を進めていたため、摂津市と阪急との間で温度差がありました。そのため、費用負担が100%の摂津市請願駅という条件で話が始まります。
しかし、まちづくりに関する調査や検証を進めるにあたって、新駅設置で阪急にも一定の利益(住宅供給によって阪急利用者が増える)があるということが摂津市・阪急の双方の認識となり、阪急側も、駅設置の費用を一部負担するという方向に決まります。
2000年時点では、摂津市駅が高架駅という前提で計画が動き出そうとしていました。
地上駅への方針転換
2003年6月時点で、再開発の段階計画が固まります。まとめるとこんな感じです。
ステージ | 目的 | 整備内容 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
新駅 | 駅前 | 高架化 | 道路 | 施設 | ||
第1段階 | 企業用地の土地利用転換 まちびらき |
平面駅設置 | 暫定 | 用地取得 | 主要区画道路 区画道路 境川沿いの歩行者専用道路 |
公園 供給処理施設 |
第2段階 | 都市計画による南千里丘地区全体の開発 | 高架駅設置 | 最終 | 切替用の仮線・仮駅設置 高架工事 |
駅前広場進入路 千里丘三島線の未整備区間 |
商業施設 住宅施設 |
再開発は2段階計画となり、高架前提で計画していた摂津市駅は平面駅(地上駅)として開業した後、仮線および仮駅を経て、最終的に高架駅として開業を目指すことになります。
何故、地上駅を開業した後に高架駅に切り替えるのか。
まず、最初から高架駅とすると、立体交差事業として進める必要があります。立体交差事業となると、摂津市の財政負担が大きくなるので、国や大阪府に支援を要請する必要があります。しかし、高架化に必要な用地取得が間に合っておらず、その状態で、国や大阪府に支援を要請しても、「そんなものは絵に描いた餅だ」と判断されて、支援を却下されてしまいます。
そのため、
- 第1段階…取得済み用地を先行開発し、その間に高架化に必要な用地を取得
- 第2段階…都市計画として国と大阪府の支援込みで立体交差事業
という2段階計画で臨むことになりました。
南千里丘まちづくり構想
2006年5月26日、摂津市と阪急の共同リリースで、「南千里丘まちづくり構想」を発表します。
摂津市「南千里丘まちづくり構想」について|摂津市・阪急電鉄(共同リリース)
駅の周辺を4つの街区(ブロック)にわけて、街の核となる部分から整備する構想です。
この時はじめて、阪急京都線に新駅が設置されることが正式リリースされました。
ただし、「まちびらきをすること」「新駅を設置すること」が中心で、2006年のリリース時点では、高架化について、一切触れられていません。
摂津市側の要望
新駅設置のリリースでは、どんな駅が建てられるのか、具体的には出てきませんでした。当然と言えば当然で、摂津市駅の概略設計が届いたのはリリース後、しばらく経過してからです。
2007年10月25日の駅前等再開発特別委員会「南千里丘まちづくりについて」の議事録を見ると、高架化前提の平面駅(地上駅)について、摂津市側が要望を出しているのが伺えます。
その中で、摂津市が求めていたのは、
- すぐに高架化に対応できる平面駅
- バリアフリー対応
- コンパクト(駅舎・ホーム・費用面含め)
というもの。高架化前提のため、敷地も費用も最小限に抑えるというものでした。
加えて、電車に乗って街に着いた時、一番最初に出会うのが駅ということから「環境モデル駅」を視野に入れて欲しいという要望を摂津市から阪急側に申し入れています。
摂津市としては、再開発にあたって環境型モデル都市を目指しています。そして、新駅はまちびらきの目玉の一つです。将来的に高架化される前提の新駅をコンパクトにしようと言っても、環境を考慮したまちづくりを進めているため、環境を考慮した駅を開業する必要がありました。
その後は駅周辺の設備等のやりとりの会議が続いていますが、大きく計画が揺らぐことも無く、2010年3月14日、阪急京都線に日本で初めての「カーボン・ニュートラル・ステーション」である摂津市駅が開業します。
摂津市駅開業の裏で高架化が動き出す
摂津市駅が開業する1ヶ月前、摂津市議会・駅前等再開発特別委員会で「阪急京都線連続立体交差化について」という議題が上がります。本格的に立体交差化に動こうという話です。
摂津市駅が開業した4日後の3月18日、駅前等再開発特別委員会において、国費調査の中間報告が行われています。今までは「南千里丘まちづくり構想」という枠組みの中で摂津市駅の平面駅(地上駅)がどうたらという話が出ていましたが、その枠を越えて都市計画の事業として動き出していました。
2011年6月には調査報告が行われ、2013年6月24日の駅前等再開発特別委員会で、とある委員が、
阪急京都線の連続立体交差化は、正雀駅から南茨木駅までは、もう認可を取れたかなという感覚でいてるのです。
という発言までしています。
楽観的とも思える様な発言からしばらく経った2018年2月14日、内々で認可取得が確定していることから、立体交差化の事業スケジュールの説明が駅前等再開発特別委員会で行われました。
そもそものスタートが高架駅だった
長くなってしまったのでまとめますと、そもそも、摂津市駅は都市計画の一部として浮上したもので、高架駅という前提でした。
が、紆余曲折というか摂津市の都合上、一旦は平面駅(地上駅)として開業し、その裏ではずっと立体交差化事業の話が議論されています。それが、摂津市議会の駅前等再開発特別委員会における会議録に延々と記されています。
簡単ですが、年表形式でまとめました。
時期 | トピック | 備考 |
1996年9月ごろ | 住宅・都市整備から摂津市にまちづくり構想の持ち掛け | ダイヘン摂津事業所を中心とした地域、約4.9haの開発1。 |
1997年11月ごろ | 南千里丘地区研究会が発足 | 摂津市、住宅・都市整備公団、ダイヘンによる会 |
1999年8月ごろ | 住宅・都市整備公団が「南千里丘地区まちづくり構想」を提案 | 事業化検討区域の基盤整備方針を設定2 ・阪急京都線との立体交差化に伴う都市計画道路千里丘三島線の拡幅改良整備 ・阪急新駅の設置及び南側駅前広場の設置 ・都市計画道路千里丘三島線と新駅の駅前広場を結ぶアクセス道路の新規整備 |
1999年10月1日 | 住宅・都市整備公団が解散 | 都市基盤整備公団(現・都市再生機構)に業務継承 |
2003年6月11日 | 新駅を含む拠点の整備を検討 段階整備の計画案を策定 |
第1段階で平面駅、第2段階で高架駅の整備の案3 |
2006年5月26日 | 平面駅での設置が確定 「摂津市駅」という名称の初出 |
駅名は阪急社長と摂津市関係者の雑談から。 |
2006年5月26日 | 「南千里丘まちづくり構想」の合意 新駅設置の決定 |
合意時点では駅名未定 |
2007年10月25日 | 新駅の概略設計 | 最終的な目標が連続立体交差であることを改めて強調。 そのため、摂津市から以下要望で駅の概略設計を委託している。 ・すぐに高架化に対応できる平面駅 ・バリアフリーの対応の駅 ・駅舎はコンパクトかつ環境配慮型の新しい駅舎(環境モデル駅) ・最小限の費用 |
2008年9月2日 | 阪急が新駅の外観デザインおよび環境モデル駅の検討案提示 | ある参加者から「高架化前提の駅(将来的に壊す駅)をそこまで豪華にする必要があるのか」とツッコミが入るも、 「再開発によって環境配慮の都市計画にしている」という理由で担当者にアッサリと論破される。 |
2008年10月28日 | 駅名が摂津市駅に正式決定 | |
2010年2月22日 | 阪急京都線連続立体交差化が議題に上がる | |
2010年3月14日 | 摂津市駅開業 | |
2010年3月18日 | 連続立体交差事業による調査の中間報告 | |
2011年6月2日 | 阪急京都線連続立体交差事業について本格検討 | 新駅が出来たことがトリガーになって、連続立体交差事業が本格化したことをほのめかしている |
2013年6月24日 | 認可を取れたという感覚の発言 | |
2017年2月28日 | 都市計画が決定 | 連続立体交差事業を盛り込んだ都市計画を策定 |
2018年2月14日 | スケジュール説明 | 認可が内々で確定したことに伴う |
2018年2月28日 | 都市計画事業認可 | 都市計画として着手 |
2018年~ | 用地取得業務 | 用地測量、境界立会、不動産鑑定、物件補償算定等 |
2023年 | 工事着手予定(目標) | |
2033年 | 事業完了予定(目標) |
2022年時点では用地取得の段階で、何事も無ければ2033年には立体交差事業が完了し、高架化された摂津市駅が開業することになります。
編集後記
高架化になって摂津市駅周辺がどんな感じになるのか楽しみ😺✨
摂津市議会の会議録
摂津市議会 駅前等再開発特別委員会 駅前等再開発について(平成12年12月1日開催)
摂津市議会 駅前等再開発特別委員会 シビックゾーン周辺等まちづくり構想調査の中間報告について(平成15年6月11日開催)
摂津市議会 駅前等再開発特別委員会 南千里丘まちづくりについて(平成18年5月26日開催)
摂津市「南千里丘まちづくり構想」について|摂津市・阪急電鉄(共同リリース)
摂津市議会 駅前等再開発特別委員会 南千里丘まちづくりについて(平成19年10月25日開催)
摂津市議会 駅前等再開発特別委員会 南千里丘まちづくりについて(平成20年9月2日開催)
京都本線 正雀駅~南茨木駅間の新駅が「摂津市」駅に決定~同駅を日本初の『カーボン・ニュートラル・ステーション』に~
摂津市議会 駅前等再開発特別委員会 阪急京都線連続立体交差化について(平成22年2月22日開催)
摂津市議会 駅前等再開発特別委員会(平成22年3月18日開催)
摂津市議会 駅前等再開発特別委員会 阪急京都線連続立体交差事業について(平成23年6月2日開催)
関連リンク
【京都線】開業から7年で高架化決定?阪急摂津市駅|大阪メトロポリス(個人サイト様)
阪急京都線-摂津市駅|Re-urbanization -再都市化-(個人サイト様)