2022年5月13日、阪急阪神ホールディングスが2021年度の決算を公開しました。2020年度は全体で約367億円の赤字でしたが、約214億円の黒字にV字回復させています。
全体としては好調に見えますが、旅行事業とホテル事業に関しては赤字のままで苦戦が続きます。
グループ全体では214億円の黒字
2021年度の阪急阪神ホールディングス(以下、阪急阪神HD)の決算で、グループ全体の純利益が約214億円で、昨年の約マイナス367億円から約581億円増となっています。
2021年度 | 2020年度 | 比較増減 | |
営業収益 | 7,462億1,700万円 | 5,689億0,000万円 | 1773億1,700万円 |
営業利益 | 392億1,200万円 | 20億6,600万円 | 371億4,500万円 |
純利益 | 214億1,800万円 | - 367億200万円 | 581億2,100万円 |
セグメント別の営業成績を見てみましょう。
セグメント別営業成績 | ||||||
セグメント | 営業収益 | 営業利益 | ||||
2021年度 | 2020年度 | 比較増減 | 2021年度 | 2020年度 | 比較増減 | |
都市交通 | 1,616億2,300万円 | 1569億2,600万円 | 46億9,600万円 | 56億2,900万円 | -51億800万円 | 107億3,700万円 |
不動産 | 2,305億2,600万円 | 1883億6,000万円 | 421億6,600万円 | 329億5,200万円 | 289億2,300万円 | 40億2,900万円 |
エンタテインメント | 628億6,400万円 | 421億9,200万円 | 206億7,200万円 | 92億6,300万円 | -22億5,800万円 | 115億2,200万円 |
情報・通信 | 591億8,100万円 | 580億8,300万円 | 10億9,700万円 | 58億6,700万円 | 55億5,600万円 | 3億1,100万円 |
旅行 | 604億1,900万円 | 119億6,000万円 | 484億5,900万円 | -57億4,800万円 | -73億9,700万円 | 16億4,800万円 |
国際輸送 | 1432億9,600万円 | 855億5,200万円 | 577億4,300万円 | 80億1,900万円 | 23億800万円 | 57億1,100万円 |
ホテル | 255億5,400万円 | 191億4,500万円 | 64億900万円 | -131億7,600万円 | -179億2,700万円 | 47億5,000万円 |
その他 | 516億6,600万円 | 498億4,000万円 | 18億2,600万円 | 23億8,500万円 | 18億8,100万円 | 5億300万円 |
調整額 | -489億1,400万円 | -431億6000万円 | -57億5400万円 | -59億7900万円 | -39億1100万円 | -20億6800万円 |
連結 | 7462億1700万円 | 5689億円 | 1773億1700万円 | 392億1200万円 | 20億6600万円 | 371億4500万円 |
2020年度は都市交通(鉄道・バス等)、エンタテインメント(阪神タイガース・宝塚歌劇等)、旅行(阪急交通社等)、ホテルのセグメントで赤字でしたが、そのうち、都市交通とエンタテインメントは2021年度決算で黒字に回復しています。
都市交通事業は移動制限緩和されたことで利用者が戻ってきたこともあり、完全にコロナ前まで回復とはならないものの、危険水域を脱した状態と言えます。
また、エンタテインメントについては、プロ野球・阪神タイガースの無観客試合が終了するなどの観客制限が緩和されたことや、宝塚歌劇のライブ配信・オンデマンド配信での好調により、利益増額は全セグメント中トップの約115億円となっています。
一方、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の度重なる発令、入国制限によるインバウンド需要の激減、気が付いたら消滅しているGoToキャンペーンの影響により、旅行・ホテルのセグメントは赤字を脱することが出来ていません。
コア事業の見直し
そんなわけで、赤字セグメントのうち、ホテル事業は2022年4月から不動産事業に統合されています。
決算補⾜説明資料の17ページに理由が述べられていますが、要約すると、
- ホテル事業が不採算(赤字)
- ホテル跡地を不動産事業が担っているまちづくりに繋げる
ということになります。
統合と言えば聞こえはいいですが、実質的な吸収です。両事業の関連度から考えて、不動産事業の配下になるのは妥当と言えば妥当と言えますが、数字を見れば、2年連続で利益ワーストのホテル事業を、利益トップの不動産事業がカバーする格好になります。
都市交通事業の回復と設備投資
都市交通事業(阪急電鉄・阪神電鉄など)は2020年度の約51億円の赤字から一転して、約56億の黒字に回復しました。移動制限が緩和されたこともあり、阪急や阪神だけでなく、鉄道各社でも増収になっているため、妥当と言えば妥当です。
設備投資関連では、具体的な数字は出てないものの、車両新造及び改造が盛り込まれています。既に1300系1314Fが正雀に搬入されており、試運転も実施されています。
気になるところでは、有料特急関連の話。2021年度の各四半期に公表されている有価証券報告書では、有料特急の検討が記載されていますが、決算では特に記載されていません。決算説明会で有料特急に関する進捗状況や今後の方針が説明されると考えられます。
立て直したエンタテインメント事業、苦戦続く旅行・ホテル
さて、人の往来が緩和されているとはいえ、依然として苦戦が続く旅行事業とホテル事業。2020年度で赤字だったエンタテインメント事業は2021年度に黒字転換できましたが、旅行事業とホテル事業は赤字のままです。
エンタテインメント事業の回復
エンタテインメント事業の黒字転換については、決算短信で理由が述べられています。
スポーツ事業では、阪神タイガースが、ファンの方々のご声援を受けてシーズン終盤まで優勝争いを演じ、クライマックスシリーズへの進出を果たしました。また、阪神甲子園球場では、甲子園歴史館の一部を移転・拡張するとともにリニューアルを行い、施設の魅力度の向上を図りました。
ステージ事業では、歌劇事業において、新トップスターのお披露目となった雪組公演「CITY HUNTER」・「FireFever!」、月組公演「今夜、ロマンス劇場で」・「FULL SWING!」等の各公演が好評を博したほか、宝塚歌劇をご自宅のテレビやスマートフォン等で視聴できるライブ配信サービスの対象公演の拡充等を図り、多くのお客様にご利用いただきました。―2022年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) 3ページ目より
阪神タイガースについては2021年シーズンのチーム成績の好調を理由に挙げてますが、入場制限さえクリアすれば、いずれは復調が考えられていました。2021年は現地観戦が制限されていた反動による特需もあると思いますが、2022年シーズンのチーム状態を見ると、現地観戦しているファンは暗黒時代を乗り越えた猛者でしょう。
宝塚歌劇の方も好調…というより、今までの収益構造にメスを入れています。
現地、つまりリアルでの観劇がコロナによって難しくなったことから、ライブ配信やオンデマンド配信に注力しています。現在は公演数も少しづつ戻してきていますが、ライブ配信で遠方から来れない人が手軽に見れたり、オンデマンド配信で過去作品を視聴する層が増え、黒字転換に繋がっていると考えられます。
旅行・ホテルは赤字のまま
旅行・ホテルの収益悪化は、インバウンド需要や旅行控え等が大きい要因ですが、旅行業界で毎年安定していると言われていた修学旅行利用の団体客も減っていることも大きいです。
旅行・ホテルは業界全体的に低迷しており、GoTo何とかも期待出来ないため、短期間でのV字回復は難しそうです。受け身で徐々に回復するのを待つか、エンタテインメント事業、特に宝塚歌劇の様に、収益構造にメスを入れるかの瀬戸際に立たされている状態だと考えられます。
恐らく、阪急交通社や阪急阪神グループ各ホテルも、その辺りは認識していると思います。事実、ホテル事業は不動産事業に取り込まれ、不採算セグメントの赤字解消に向けて動き出しています。今後、どの様に旅行・ホテルの事業の赤字状態を解消するのか、その辺りは決算説明会を待つしかありません(具体的に説明があるのか不明ですが)。
編集後記
グループ全体では黒字ですが、旅行・ホテルのセグメントで赤字が出ており、依然として厳しい状況には変わりありません。
ホテル事業を不動産事業配下にしたのはインパクトがあり、相当よろしくない状況ではありますが、『沈まぬ太陽』で岩合宗助氏が言ってた様に、ホテル事業は長期的な視点が必要となります。赤字が続いているものの、不採算だからと言って切り捨てるのではなく、一旦はグループ内で支え、時期を見て独立セグメントとして再出発する可能性もあります。
関連リンク
2022年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)|阪急阪神ホールディングス
2021年度(2022年3月期) 決算補⾜説明資料|阪急阪神ホールディングス