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ターミナルデパートは本当に阪急百貨店が世界初なのか?

世界初のターミナルデパートといえば阪急百貨店!

…と言いたいところですが、どうやら、解釈によっては三笠屋百貨店の方が世界初のターミナルデパートであると主張する謎の勢力が存在するみたいです。

じゃあ、三笠屋百貨店が世界初のターミナルデパートである、その解釈とは何なのか?本当に阪急百貨店は世界初のターミナルデパートなのか?当サイトで調べてみました。




世界初のターミナルデパートの候補

「世界初のターミナルデパートのどこか?」という説はいくつか存在しています。

それらをシンプルに年表にするとこうなります。

年月日できごと
1920年11月1日白木屋が阪神急行電鉄梅田駅構内の阪急ビルディング(5階建て)の1階に出張売店として出店(白木屋梅田出張店
1925年6月1日阪急梅田ビル2・3階に阪急マーケット開業
1926年9月16日上本町駅構内の大軌ビルディングの地下1階~地上3階に三笠屋百貨店が開設
1929年4月15日阪急の梅田駅に隣接して阪急百貨店開業

いずれも、世界初のターミナルデパートの開業と言われています。

通説では阪急百貨店、その前身である阪急マーケット、そしてその源流である白木屋梅田出張店が世界初のターミナルデパートとされています。

しかし、近鉄の前身の一つである大阪電気軌道(大軌)が建設した「大軌ビルディング」に開業した三笠屋百貨店を世界初のターミナルデパートとする見解もあります。

で、今回は阪急百貨店と三笠屋百貨店の粗探しをして、世界初のターミナルデパートは阪急百貨店・三笠屋百貨店のどちらなのかを考えてみます。

【注意】執筆者は阪急のファンなので、記述内容やボリュームが若干、阪急寄りになっていますが、三笠屋百貨店を貶める気は一切ありません。

ターミナルデパートとは?

いくつか世界初のターミナルデパートの候補が出てきました。ところで、ターミナルデパートとは何なのでしょうか?

端的に言ってしまえば、ターミナル駅に立地しているデパート(百貨店)のことです。

ただし、それは現代から過去を見た時の話で、ターミナルデパートは後世の人間が定義した言葉です。「鎌倉幕府が1192年に誕生したのかどうか?」という議論と同じで、何をもってターミナルデパートとするのかは解釈次第となります。

そして、その解釈が複雑怪奇極まりないことになっています。

ちなみに、流通用語辞典では、

ターミナル・デパート【terminal department store】

 鉄道やバスのターミナルの集客力を利用したデパート。主に私鉄の経営多角化の一環として行なわれるケースが多く、沿線を系列の不動産業で開発し、鉄道で沿線住民を輸送してその購買力を吸引することを目的としたもの。この発想の原点は、阪急グループの創業者である小林一三である。

ターミナル・デパート|流通用語辞典より引用

としています。私鉄経営モデルを説明するための、お手本回答みたいな記述です。

ただし、流通用語辞典の記述では、「発想の原点が阪急の小林一三氏」という言及にとどめており、具体的に「どこ」(場所)の何という百貨店(屋号)がターミナルデパートであるとは言及していません。


ターミナルデパートの成立

先述しましたが、世界初のターミナルデパートは、大体は次の4つが言及されています。

  • 白木屋梅田出張店(1920年11月1日)
  • 阪急マーケット(1925年6月1日)
  • 三笠屋百貨店(1926年9月16日)
  • 阪急百貨店(1929年4月15日)

それぞれの成立経緯と当時の状況を各資料からたどってみます。

白木屋梅田出張店(1920年11月1日)

まず1920年11月1日に開業した白木屋梅田出張店。

阪神急行電鉄梅田駅構内の旧阪急ビルディングの1階に出張売店として白木屋が出店しました。販売したものは、食料品・日用品といったもの。当時の百貨店は呉服屋の延長・発展だったので、新しい試みでした。

ただし、これは実験的な意味合いでの出店であり、世界初のターミナルデパートというよりも、ターミナルデパート成立の前史と言えます。

阪急百貨店の社史である『株式会社阪急百貨店二十五年史』 および『株式会社阪急百貨店50年史』 では、

  • 人が集まる梅田駅に高層ビルを建設して直営の食堂・百貨店を経営する計画
  • 実験で白木屋に出張店を経営してもらい、動向を見る(賃貸契約のテナント扱い)

という内容の記述があります。

白木屋社史の『白木屋三百年史』では梅田出張店について、ターミナルデパートの先駆けとした上で、

  • 大阪支店が堺筋に完成するまでの間の出張店(賃貸契約)
  • 阪急の小林一三が計画していたターミナルデパート構想の実験

としています。

また、大阪市史編纂所は、1920年11月1日のできごととして、

白木屋梅田出張所が阪神急行梅田駅に開店、ターミナル・デパートの先駆けとなる – (1920年)

市史編纂所 大阪の歴史 今日は何の日(11月01日)|大阪市立図書館

を挙げています。

いずれも、白木屋梅田出張店については、ターミナルデパートの先駆け(前史)という位置づけです。

将来的な百貨店経営の構想はありましたが、白木屋梅田出張店はあくまでも実験にとどまっています。フロア規模を見るとリスクを考慮していることがわかります。白木屋梅田出張店は阪急ビルの1フロアのうちの55坪(182㎡)のスペースであり、小さな商店(現代で言うと14m×13mくらいのコンビニみたいな広さ)という規模のため、「ドドーンと大きい百貨店ビル」とは程遠いものです。


阪急マーケット(1925年6月1日)

白木屋梅田出張店の契約満了後、1925年6月1日に阪急梅田ビルに開業したのが阪急マーケットです。鉄道会社の資本と従業員で運営された阪急直営の店舗です。

食料品や生活雑貨の品ぞろえで、現在のスーパーマーケットに近い業態です。しかし。フロア面積は1フロア264㎡で総面積528㎡という広さ、16.5m×16mのフロアが2つあると考えると、現在のターミナルデパートと言える規模ではありません。

『株式会社阪急百貨店二十五年史』では、

(前略)日本にはいうにおよばず、世界にもかつてなきターミナルデパートのあけぼのとして、全員素人ばかりで新しくはじめられる阪急マーケットの開業を祝福するかのごとく、朝の陽光がさんさんと阪急ビルに注がれる中を、開店を待った大勢の顧客は開店とともに潮の如くおしよせ、2・3階はまたたく間に人で埋められた。ここに消えることのない事実、すなわち阪急百貨店の前身である阪急マーケットの歴史が綴られたのである。

―『株式会社阪急百貨店二十五年史』 第1章 第1節 第7項より

と記されています。

また、『株式会社阪急百貨店50年史』 でも、

(前略)こうして大正14年6月1日、梅田の阪急電鉄本社ビル2・3階に従業員60人をもって阪急電鉄直営の阪急マーケットが開業した。(中略)ここに、阪急百貨店の前身である阪急マーケットは歴史的な第一歩をしるすことになったのである。

―『株式会社阪急百貨店50年史』「1.阪急百貨店開業への胎動 直営阪急マーケットの開業」より

と記されています。

『株式会社阪急百貨店二十五年史』では「世界にもかつてなきターミナルデパート」としていることから、阪急マーケットが世界初のターミナルデパートであると阪急百貨店側が考えていたことがわかります。

ただし、『株式会社阪急百貨店50年史』では、世界初というキーワードが無くなっています。

阪急としては、阪急マーケットが阪急百貨店の前身であることは明記していますが、世界初のターミナルデパートであるかどうかは後年になって見直しが入ったと考えられます。


三笠屋百貨店(1926年9月16日)

1926年8月31日に大阪電気軌道の大軌ビルディングが完成した後、1926年9月16日に三笠屋百貨店が入店しました。それは紛れもない事実です。

ところが、三笠屋百貨店に関係するWeb媒体や資料を色々と調べても、三笠屋百貨店が世界初のターミナルデパートであるという記述がありません。いくつか紹介します。

三笠屋百貨店側の記述

三笠屋百貨店側の記述として、三笠屋百貨店の社史の様な資料があれば良かったのですが、どうやらその類のものが無いようです(調査不足でしたら申し訳ないのですが)。

なので、百貨店の研究において非常に深く掘り下げている谷内正往氏の研究を参考に、『商店界』(第9巻第1号)を確認してみました。そこには、三笠屋百貨店の創業者・蜂谷経一氏に関する記述がありますが、三笠屋百貨店の経緯や、当時の三笠屋百貨店の様子が記されているだけで、世界初のターミナルデパートどうのこうのという記述はありません。

大阪市史編纂所

三笠屋百貨店に関する大阪市史編纂所の記述(Web閲覧可能)では、

上本町6丁目に大軌ビル竣工(ビル内に大阪最初の三笠屋百貨店開店) – (1926年)

市史編纂所 大阪の歴史 今日は何の日(08月31日)|大阪市立図書館

とあります。「大阪最初の」という記述はありますが、「三笠屋百貨店開店」が解釈に困る表現です。これだけを目にすると、読み手によっては、大阪市史編纂所の記述は、三笠屋百貨店が世界初のターミナルデパートと捉えられなくもありません。

先述した『商店界』(第9巻第1号)の「食料品店開業当時の思ひ出」によると、「三笠屋百貨店」の前名称は「三笠屋」で、大軌ビルに入る時に「三笠屋百貨店」に改称しています。

ただし、当時の三笠屋の店舗は、大軌停車場(上本町6丁目)の目の前で営業していた「三笠屋」のみで、それが大軌ビルに移転して「三笠屋百貨店」に改称しただけです。

確かに、大軌ビルに「大阪最初の三笠屋百貨店」が開店していることは間違いではありません。なので、大阪市史編纂所の記述は、あながち間違ってはいないのですが、非常に絶妙な記述なので、読み手によっては「大阪市史編纂所は三笠屋百貨店が世界初のターミナルデパートと主張している」と捉えられます。

新修大阪市史

『新修大阪市史』の第6巻に、阪急マーケットと三笠屋百貨店の記述がありますが、世界初のターミナルデパートという類の記述はありません。そして、どちらの店舗も呉服系の百貨店に比べると小規模ということが記されています。

ちなみに、三笠屋百貨店については、

大阪のデパートで百貨店と正式に名乗ったのは、前記の三笠屋百貨店が最初であろう。

―『新修大阪市史』 第6巻

とあります。確かに、阪急百貨店という名称が登場するのは1929年なので、少し無理のある解釈かもしれませんが、1926年時点では「ターミナル駅の百貨店」というのは三笠屋百貨店が最初となります。

大阪「NOREN」百年会

三笠屋百貨店に関する大阪「NOREN」百年会の記述では、

大阪はすでに、三越・松坂屋・大丸・そごう・高島屋などの、大規模小売商の老舗があり、鉄道発達に呼応して店舗を移転・拡張して発展を遂げていたが、ターミナルにおける百貨店としては、上六の大軌ビルに開業した三笠屋百貨店がその第1号であった。

かわら版<2000 第6号>|大阪「NOREN」百年会

とあります。大阪市史編纂所と比べると、かなりストレートな表現です。

ただし、大阪市史編纂所と同様に、「第1号」と非常に絶妙な表現を用いており、世界初とも日本初とも書いてません。

三井住友トラスト不動産

三井住友トラスト不動産も、「このまちアーカイブス INDEX」で、

1926(大正15)年に新しいターミナルビルが完成、「上本町駅」は移転となった。このとき、ターミナルビルの地下1階~地上3階部分に「三笠屋百貨店」が入店した。これは、日本初(世界初ともいわれる)のターミナルデパートであった。

交通・商業の中心地 ~ 上町台地(阿倍野)「上本町駅」に誕生した日本初のターミナルデパート|不動産購入・不動産売却なら三井住友トラスト不動産

と記しています。かなり具体的に言い切っています。

社史(近鉄百貨店・大阪電気軌道)

じゃあ、近鉄百貨店と大阪電気軌道の社史はどうなっているのかというと、ターミナルデパートが世界初かどうかに関する記述は見当たりません。

ちなみに、店舗規模で言うと近鉄百貨店の社史『40年のあゆみ』で、大軌百貨店開業の経緯について記されており、その時の三笠屋百貨店の規模については、

三笠屋は百貨店と呼んではいましたが、一般の商店よりも少し大きいという程度で、…

―『40年のあゆみ』株式会社近鉄百貨店編

とだけ記されています。

大阪電気軌道の社史である『大阪電気軌道株式会社三十年史』には、三笠屋百貨店が入店していた大軌ビルの規模について記載されています。大軌ビルは、地下1階と中2階を含めた9階建てで、本館総延坪は2,847坪7合3勺(約9,400㎡強)という巨大なビルですが、入店していた三笠屋百貨店がどれくらいの規模なのか不明です。


阪急百貨店(1929年4月15日)

通説になっている世界初のターミナルデパートである阪急百貨店が登場したのは、1929年4月15日です。

先述の阪急マーケットとは比べ物にならない規模で、地上8階・地下2階の阪急百貨店ビルが建設されています。延床面積は10,605㎡で、ビル全体が百貨店です(地上1階は梅田駅コンコース)。

『株式会社阪急百貨店二十五年史』では、

こうして、4月15日世界最初のターミナルデパートである阪急電鉄直営・阪急百貨店がはなばなしく開店した。

―『株式会社阪急百貨店二十五年史』 第2章 第1節 第10項

としており、『株式会社阪急百貨店50年史』 でも、

日本は言うに及ばず世界にも例が無いターミナルデパートの誕生である。

―『株式会社阪急百貨店50年史』「2.ターミナルデパートの誕生 阪急百貨店第1期ビルディングの建設」より

と記しています。

尚、大阪市史編纂所では、

阪急百貨店開業 – (1929年)

―市史編纂所 大阪の歴史 今日は何の日(04月15日)|大阪市立図書館

とだけ記されています。三笠屋百貨店については、「大阪最初の」というキーワードを用いて、解釈が困る様な記述をしていますが、阪急百貨店に関してはサラッと開業した事実のみを記載しています。


三笠屋百貨店推しが多いが…?

長くなったので整理してみます。

阪急百貨店社史では、阪急マーケットは前史で、阪急百貨店が世界初のターミナルデパートと言い切っています。もちろん、阪急は当事者なので、世界初と主張するのは当然と言えば当然です。

三笠屋百貨店については、資料が少ないため何とも言えない部分もありますが、創業者の蜂谷氏が登場する『商店界』では、三笠屋百貨店が世界初のターミナルデパートとは主張していません。

大阪市史編纂では、三笠屋百貨店については「大阪最初の三笠屋百貨店開店」という拡大解釈されかねない表現で記載しています。白木屋梅田出張店は「ターミナル・デパートの先駆け」と位置付けた上で、阪急百貨店については「開業した」という事実のみ記しています。世界初がどこかというのを記載していないですが、ちょっと紛らわしい書きっぷりです。

新修大阪市史では、阪急マーケットと三笠屋百貨店の規模を呉服系百貨店に比べて小規模とした上で、ターミナル駅に「百貨店」と名称の付く店舗が登場したのは三笠屋百貨店が最初と記しています。しかし、「世界初のターミナルデパートがどこか」ということについては触れていません。

大阪「NOREN」百年会三井住友トラスト不動産は三笠屋百貨店について、「ターミナルにおける百貨店としては、上六の大軌ビルに開業した三笠屋百貨店がその第1号」(大阪「NOREN」百年会)、「日本初(世界初ともいわれる)のターミナルデパート」(三井住友トラスト不動産)と記しており、三笠屋百貨店推しです。ただし、手放しで飛びつけない主張です。

近鉄百貨店大阪電気軌道の社史については、三笠屋百貨店が大軌ビルに入った事実を記していますが、「三笠屋百貨店が世界初のターミナルデパートである」という類の記述はありません。


呉服系百貨店に匹敵する規模なら阪急百貨店

規模で言うと、白木屋梅田出張店と阪急マーケットは明確な店舗面積まで記録が残っていますが、三笠屋百貨店は具体的な数字が出てきませんでした(調査不足だったら申し訳ないです)。

ただし、『新修大阪市史』では呉服系百貨店と比較して、阪急マーケットと三笠屋百貨店の規模がそれほど大きくないと見ています(ここにも具体的な数字は記されていませんが…)。

呉服系百貨店にも匹敵する規模の百貨店、つまりビル全体が百貨店として登場したのは、電鉄系百貨店では阪急百貨店が世界初です。確かに、三笠屋百貨店が入っていた大軌ビルは巨大で、阪急百貨店よりも先に建設されました。三笠屋百貨店も3フロアに渡って営業していましたが、その規模は不明ですし、そもそもビル全体が百貨店ではありません。

…となると、三笠屋百貨店を世界初のターミナルデパートと言う謎の勢力の主張は無理筋と考えられます。やはり、1929年4月15日に開業した阪急百貨店が世界初のターミナルデパートであると言えるでしょう。


編集後記

「いやいや、こういう理由だから三笠屋百貨店が世界初のターミナルデパートだよ!」というご意見ありましたら、Twitterまで情報頂ければ幸いです😺

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参考文献

『株式会社阪急百貨店二十五年史』 株式会社阪急百貨店社史編集委員会 編

『株式会社阪急百貨店50年史』 株式会社阪急百貨店 50年史編集委員会 編

『新修大阪市史 第6巻』 新修大阪市史編纂委員会編集

『近畿日本鉄道80年のあゆみ』 近畿日本鉄道

『40年のあゆみ』株式会社近鉄百貨店編

『商店界』第9巻第1号 誠文堂新光社編

『大阪電気軌道株式会社三十年史』 大阪電気軌道

鉄道イベント情報(鉄道コムtetsudo.comより)

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