阪急の車両にはパンタグラフを2つ搭載されている車両、いわゆる「ダブルパンタグラフ」と呼ばれている車両が多く在籍しています。
いったい何故、1両にパンタグラフを2つ搭載しているのでしょうか?
阪急のパンタグラフ
阪急の車両にあるパンタグラフの種類は、2022年1月現在で菱形パンタグラフ・下枠交差型パンタグラフ・シングルアームパンタグラフの3種類が存在します。
パンタグラフ | 搭載形式 (現役) |
1両あたり パンタ台数 |
備考 |
菱形 | 3300系 | 1台 | |
下枠交差型 | 5100系 | 1台 | |
2台 | 5132・5134・5136・5138・5146・5148 | ||
5300系 | 2台 | ||
6000系 | 2台 | ||
6300系 | 2台 | ||
7000系 | 2台 | ||
7300系 | 2台 | ||
8000系 | 2台 | ||
8300系 | 2台 | ||
シングルアーム | 5000系 | 1台 | リニューアル工事で菱形から交換 |
5100系 | 1台 | 2022年1月時点で5128と5140のみ | |
8000系 | 2台 | 8008F、8040F、8042F | |
8200系 | 2台 | ||
8300系 | 2台 | 8315Fのみ | |
9000系 | 2台 | ||
9300系 | 2台 | ||
1000系 | 2台 | ||
1300系 | 2台 |
2022年1月現在、阪急の現役形式のうち、ほとんどの形式がダブルパンタを採用しています。
阪急におけるダブルパンタグラフの目的
阪急の車両でダブルパンタグラフを設置している目的は離線対策です。
もちろん、パンタグラフ自体の主目的は集電ですが、阪急の場合、回生ブレーキを採用している形式が多いため、離線対策は欠かせません。
パンタグラフ1つあたりの性能が向上したとしても、電気ブレーキ発動時に発生した電気を架線に戻す回生ブレーキの場合、万が一、パンタグラフが離線していたら、架線に電気を戻すことが出来なくなります。
そのため、回生ブレーキ機能を有している場合、1両にパンタグラフが2つあれば、どちらか1つのパンタグラフが離線しても、もう1つのパンタグラフによって架線に電気を戻すことが出来ます。
一時期、ダブルパンタではなかった
阪急では、5300系以降の形式で、基本的にダブルパンタグラフを採用しています。
少し過去にさかのぼると、2000系・2200系・2300系・2800系・3000系(一部)でダブルパンタグラフを採用していましたが、5300系が登場するまでダブルパンタグラフを採用していませんでした。これは、架線電圧の昇圧とブレーキが関係しています。
2000系は当初、回生ブレーキを採用していたため、離線対策を目的としてダブルパンタグラフを採用していました。しかし、神戸線の架線電圧が600Vから1500Vに昇圧されて話が変わります。
この時、2000系の電気機器は600V専用だったので、1500V対応のために改造工事を行います。ただし、2000系が設計された当初は600Vだったので、各種機器が600Vにしか対応できません。
そこで、600Vと1500Vを切り替え可能な即席改造を実施。しかし、全てを救うことは出来ず、定速制御と回生ブレーキを廃止せざるを得なくります1。
昇圧によって回生ブレーキを使用しなくなったため、2000系では離線対策用のダブルパンタグラフは不要となり、1両に2つ搭載されたパンタグラフのうち、神戸方面のパンタグラフのみを残すことになりました。以降、回生ブレーキを使用しない形式では、基本的にダブルパンタグラフを見送っていました。
しかし、5300系で主電動機出力の増強および全電気指令式電磁直通ブレーキを採用したことにより、集電性能向上と離線対策を目的としてダブルパンタグラフが復活。回生ブレーキを使用していないですが、主電動機の出力を上げることに伴って必要電力が上がった2ため、ダブルパンタグラフの必要がありました。
6300系も回生ブレーキを使用していないですが、5300系と同等の主電動機出力と発電ブレーキ併用電気指令式ブレーキ を採用していることから、ダブルパンタグラフとなっています。
また、出力増強の他にも、6300系以降に製造された6000系や6300系の増備車・6330Fから回生ブレーキが復活。7000系以降の形式も回生ブレーキを使用しているため、ダブルパンタグラフが基本となりました。
編集後記
ダブルパンタすき😽
参考文献
『鉄道ピクトリアル No.837 2010年8月臨時増刊号 【特集】阪急電鉄』 株式会社電気車研究会
『阪急電車』 JTBパブリッシング
『阪急テクノロジー』 阪急電鉄株式会社 コミュニケーション事業部
関連リンク
小田急50000形(VSE)はなぜダブルパンタグラフなのか|Odapedia(個人サイト様)