阪急は7000系・7300系まで一貫した顔のデザインでしたが、8000系登場時にその風貌は一新されました。今までまるっとしたデザインでしたが、シャープなデザインが採用され、一部のファンからは「新車顔」と呼ばれて愛されています。
ところで、8000系以降では、前面の貫通扉の窓が拡大されています。この理由、いったい何なのでしょうか?
阪急8000系の外観デザイン
阪急車両において、前面の均整のとれた顔立ちは、阪急マルーンと合わせて伝統的なエクステリアとも言えます。
行先表示器を覆うほど前面の窓は大きく拡大され、標識灯も丸から四角に変更、額縁デザインも相まって、かなりシャープな仕上がりになっています。
8000系のバリエーションは多く、一部では迷走しているとも言われていますが、改善点は製造時バリエーションごとにフィードバックしており、8000系・8300系以降の形式にも反映されています。
また、8000系のデザインは、9000系・9300系、2代目1000系・2代目1300系のベースデザインとしても引き継がれており、阪急車両のイメージチェンジに大きく貢献したと言っても過言ではありません。
拡大された前面貫通扉の窓
さて、シャープな顔立ちになった8000系ですが、今まで、上下左右に均整の取れた顔立ちを維持してきたにもかかわらず、前面貫通扉の窓を下方に拡大しています。
運転台の窓の底辺と、貫通扉の窓の底辺の位置を比べてみると、貫通扉の窓が少しだけ下になっています1。
また、7000系・7300系と比べてみると一目瞭然です2。
8000系で前面貫通扉の窓を拡大した理由、「子どもが前面展望しやすくなるように配慮3」「視認性の向上4」など噂が巷に流れていますが、イマイチ説得力に欠けています。
担当役員の指示…らしい?
そんなこんなで悩んでいたところ、普段から懇意にして頂いている、日本の車窓から(兵庫の人)様に、鉄道ピクトリアルに記載がある旨を教えて頂き、さっそくネットでポチって取り寄せてみました(到着まで2週間以上かかりましたが)。
当該の雑誌は『鉄道ピクトリアル No.837 2010年8月号臨時増刊 【特集】阪急電鉄』。
当該号のうち、阪急電鉄の役員・顧問を歴任した山口益生氏のコラムの中で、8000系の前面貫通扉の窓に関する記述があります。
(前略)妻扉の窓は、担当役員の示唆で下方に大きくしたが、その製作途上に、近鉄の5200系が登場して驚いた。
―『鉄道ピクトリアル No.837 2010年8月号臨時増刊 【特集】阪急電鉄』 120ページ
つまり、当時の阪急電鉄の役員が8000系のデザインに関して、それとなくコメントしていた結果、前面貫通扉の窓を下に拡大した、ということ…らしい。
機能性の観点…という理由を期待していたのですが、まさかの鶴の一声だそうです。
実際に聞いてみた
この他にも阪急8000系の資料をガサゴソと調べてみましたが、鉄道ピクトリアル以外の資料では明確に言及しているものはなく5、
という訳で、ダメ元で聞いてみました。阪急電鉄様に。
未だかつてこんな質問をする人(もちろん、問い合わせの際はガチガチのビジネス文章です。良い子は真似しちゃダメ)はいないと思うので、回答を期待していなかったのですが、何と、恐れ多くもお返事頂きました。
弊社では、車両のデザインにつきましてはトータルデザインとして検討を重ね決定しております。
(中略)形式によりタイプが異なりますが、今後も様々な観点から車両のデザインや設備等について研究を続け、お客様に愛される快適な車両をご提供していきたいと考えております。ー阪急電鉄広報部様からのご回答メール
…つまり、デザイン的な観点から前面貫通扉の窓を下方に拡大した、ということになります。
結論:デザイン
鉄道ピクトリアルの記述には機能性云々の記述はなく、役員の示唆で窓を下方に拡大したとあります。つまりデザインの話。
また、阪急電鉄様からも、デザインを考慮した上で決定したものと回答頂いております。これもデザインの話。
結論として、「阪急8000系の前面貫通扉の窓が下方に拡大されたのは、デザイン的な観点」、ということになります。
編集後記
本記事の作成に関して、いつも懇意にして頂いている日本の車窓から(兵庫の人)様に情報提供頂きました。日本の車窓から(兵庫の人)様は、車内観察日記というブログを運営されていらっしゃいますので、是非ご覧になってみて下さい。
ご協力頂きましてありがとうございました😺
また、本記事のテーマについて、デザインのプロであるsoseki様に、別アプローチから考察して頂きましたので、是非読んでみて下さい😺
面白い比較写真も見ることが出来ます😼
参考文献
『鉄道ピクトリアル No.837 2010年8月臨時増刊号 【特集】阪急電鉄』 株式会社電気車研究会
『阪急電車』 JTBパブリッシング
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鉄道イベント情報(鉄道コムtetsudo.comより)
注釈
- ただし、8000系8040形、8200系、8300系8304F・8315Fは運転台の窓が拡大され、前面貫通扉の窓の底辺と同じになっている。
- リニューアル後に前面貫通扉の窓が拡大された編成は除く。
- 山口益生氏著作の『阪急電車』(JTBパブリッシング)には「背の低い子供でも展望が容易になった」という記述があるが、結果的にそうなっただけであって、目的として子供の展望のために窓を拡大したという記述はない。
- 運転台の視点を高くして視認性を向上するケースは鉄道各社で見られるが、貫通扉の窓を拡大したところで運転士の視認性は変わらない。
- 前面貫通扉の窓が拡大されている、という類の記述はあっただけで、特に理由について言及しているものはない。