2021年12月23日に大阪IR(統合型リゾート)に関する発表があり、その中で大阪IRを主導する事業主体および出資会社が公表されました。関西を中心とする企業が出資しており、鉄道事業者からはJR西日本・京阪・近鉄・南海が名を連ねています。
ところで、このIR事業、鉄道事業者が出資しています。各鉄道事業者はIR事業に対して、どの様に関わるのでしょうか?
大阪IR株式会社
2021年12月23日に、大阪府、大阪市、MGM・オリックスコンソーシアムによって「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画(案)」が発表されました。
「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」(案)【概要版】|大阪府、大阪市、MGM・オリックス コンソーシアム
大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画(案)【本体】 |大阪府、大阪市、MGM・オリックス コンソーシアム
いわゆる大阪IR事業に関する整備計画案です。
その「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画(案)【本体】」の要求基準13で、「IR整備法第2条に定めるIR施設の設置、運営及びそれに附帯又は関連する一切の事業」を目的とする大阪IR株式会社の設立が記載されています。
2021年12月23日のリリース時点では予定としていましたが、2021年12月28日に法人登録されています。
その中で、関西の鉄道事業者も大阪IR株式会社に出資することが明記されています。
IR事業の出資参加企業
IR事業に出資参加する企業は、中核を担うMGMリゾーツ・オリックスの2社と、関西の地元企業を中心とした20社です。
そのうち、鉄道事業者は、JR西日本・京阪・近鉄・南海の4社です。
区分 | 構成員 | 議決権割合 |
---|---|---|
中核株主 | 合同会社日本MGMリゾーツ | 約40% |
オリックス株式会社 | 約40% | |
少数株主 | 岩谷産業株式会社 | 約20% |
株式会社大林組 | ||
大阪瓦斯株式会社(大阪ガス) | ||
関西電力株式会社 | ||
近鉄グループホールディングス株式会社 | ||
京阪ホールディングス株式会社 | ||
サントリーホールディングス株式会社 | ||
株式会社JTB | ||
ダイキン工業株式会社 | ||
大成建設株式会社 | ||
大和ハウス工業株式会社 | ||
株式会社竹中工務店 | ||
南海電気鉄道株式会社 | ||
西日本電信電話株式会社(NTT西日本) | ||
西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本) | ||
日本通運株式会社 | ||
パナソニック株式会社 | ||
丸一鋼管株式会社 | ||
三菱電機株式会社 | ||
レンゴー株式会社 |
JR西日本・京阪・近鉄・南海、そして延伸工事が進行している大阪メトロ中央線を含め、それぞれがIR事業に関わっています。
IR事業における鉄道事業者の役割
大阪のIR事業において、鉄道事業者が名を連ねる「少数株主」の役割は、
関西の地元企業を中心とした少数株主及び協力企業は、各社の専門性を活かしてIR施設の整備・運営・維持管理等の事業実施を支援する。
と定められています。
まだ具体的な内容は明確になっていませんが、「各社の専門性」という文言を拾うと、鉄道事業者の主な役割は新線建設と新駅設置となります。
大阪メトロ中央線:北港テクノポート線南ルート
大阪メトロ中央線に関しては、リリースの中で、
大阪市及び鉄道事業者において、大阪メトロ中央線の延伸(南ルート(北港テクノポート線))及び新駅の整備を行う(約 540 億円)。
と記載されています。
大阪メトロ中央線については、2025年に開催予定の大阪・関西万博が控えていることもあり、既に建設工事に着手しています。
工事の様子については、OsakaMetropolis様(個人サイト)が工事風景を取材されていらっしゃいますので、あわせてご覧になってみて下さい。
JR西日本:JRゆめ咲線(桜島線)の延伸
南海電鉄と共同でなにわ筋線の工事を進めているJR西日本。現在進行中のなにわ筋線が注目されていますが、JRゆめ咲線(桜島線)を舞洲まで延伸する計画が検討されています。
2014年9月18日に大阪府の「大阪府市IR立地準備会議」において、「夢洲への鉄道アクセスの技術的検討について」という議題で発表された、桜島~舞洲~夢洲というルートで夢洲へのアクセスを確保するというものです。
また、夢洲まちづくり構想検討会においても、ゆめ咲線(桜島線)を延伸して、桜島~舞洲~夢洲のルートが構想に入っています。
ただし、まだ検討段階のため、具体的な計画は発表されていません。
JR西日本の鉄道事業プロジェクトには、北陸新幹線の建設プロジェクトや、なにわ筋線の建設プロジェクトが紹介されていますが、ゆめ咲線(桜島線)に関するプロジェクトは掲載されていません。
大阪IR株式会社には出資者として名を連ねていますが、夢洲への延伸計画が正式に発表されていないため、2022年2月時点でJR西日本がどの様に関わるのか見えてこない部分が多いです。
京阪:中之島線の延伸
京阪は中之島線を延伸して、夢洲までのアクセスを検討しています。
まず、京阪ホールディングスの長期経営戦略で、大阪東西軸復権と銘打って、
- 京都への玄関口で大阪城に近接する京橋から再生医療拠点を目指す中之島を経て、IR計画のあるベイエリアに至る大阪東西軸は、古来からの歴史ある都市軸であると同時に次代の大阪にとっても重要な都市軸
- 長期経営戦略の期間内に淀屋橋、京橋の拠点開発の完了を目指すとともに、中之島の開発を並行して推進する
- 続いて、京阪グループ創業の地である天満橋の再開発と中之島線延伸の実現を目指すことで、大阪の新たな都市魅力の創造に寄与する。
と戦略を打ち出しています。
報道ベースでは、2017年7月21日の日本経済新聞で、
京阪ホールディングス(HD)は京阪中之島線を地下鉄中央線に接続、夢洲―京都間のアクセス鉄道にする。
―変貌なるか夢洲 京阪、京都に直通 近鉄、海遊館移転 IR・万博誘致にらむ 再開発を検討|日本経済新聞(2017年7月21日)より
とあります。2017年当時の話でIR誘致の前提ですが、大阪IR構想は前進しているので、大阪メトロ中央線への接続は別として、中之島線の延伸は可能性としては高いと考えられます。
また、2014年9月18日に大阪府の「大阪府市IR立地準備会議」の「夢洲への鉄道アクセスの技術的検討について」では、中之島線を新桜島まで延伸し、北港テクノポート線に接続することで夢洲までのアクセスを確保する計画案もあがっていました。
ただし、中之島線延伸計画についても、JRゆめ咲線(桜島線)延伸同様、具体的な事業計画が正式に発表されていないため、2022年2月時点では見えてこない部分が多いです。
近鉄:夢洲と観光地を結ぶ列車?
2021年5月14日に近鉄グループホールディングスから公表された「近鉄グループ中期経営計画2024」では、IR関連で2つの検討事項があげられています。
1点目は大阪上本町駅。
夢洲でのIR開業に合わせて、上本町ターミナルの交通・観光情報拠点化を継続検討
2点目は夢洲の直通列車。
夢洲と沿線観光地を直通で結ぶ列車の運行を継続検討
どちらも継続検討となっており、具体的な計画が出てきていません。
そしてもう一つ。報道ベースですが、2017年7月21日の日本経済新聞で、
近鉄グループHDは海遊館を天保山地区から夢洲へ移転することを検討している。
(中略)海遊館では大規模改修を計画するが、巨大水槽など改修費が高額になる見通し。このため「移転も選択肢の1つ」(幹部)という。
―変貌なるか夢洲 京阪、京都に直通 近鉄、海遊館移転 IR・万博誘致にらむ 再開発を検討|日本経済新聞(2017年7月21日)より
とあります。鉄道アクセスが実現不可能だったとしても、夢洲に海遊館を移すという鉄道以外でのIR事業に関わるという可能性もあります。
ただし、2022年2月時点で、どの話も具体的な計画が出てきていません。
南海:戦略未定?
南海も具体的な計画はもちろん、検討の話さえもほとんど出ていませんが、大阪IR株式会社に出資しています。
南海で考えられるのは、関西空港と夢洲のアクセスです。方法はいくつかあると思いますが、可能性としては、関空~夢洲の直通リムジンバスを整備する方法があり得そうです。
一応、2018年2月28日に発表された『南海グループ経営ビジョン2027 新中期経営計画「共創136計画」』では、「2024年 統合型リゾート(IR)の⼤阪・夢洲誘致計画」という文字は書かれていますが、南海の戦略については述べられていません。
尚、2021年4月30日に発表された「南海グループ 次期経営計画について」では、IRや夢洲に関する記述は一切ありません。全く関わらないわけではないと思いますが、2022年2月時点では不明です。
JR西日本・京阪は方向性あり、近鉄・南海は現時点で不明瞭
鉄道事業 出資4社 |
IR関連での動き | 状況 |
---|---|---|
JR西日本 | ゆめ咲線(桜島線)の延伸 | 2022年2月時点で検討 |
京阪 | 中之島線の延伸 | 2022年2月時点で検討 |
近鉄 | 上本町の交通・観光情報拠点化 夢洲の直通列車 |
2022年2月時点で検討 |
南海 | 不明 | 不明 |
大阪IR株式会社に出資しているJR西日本・京阪・近鉄・南海のうち、IR事業が順調に進めば、JR西日本のゆめ咲線(桜島線)と京阪中之島線は、大阪府・大阪市における夢洲アクセスの計画案に含まれていることから、2022年度から新線建設が前進しそうな雰囲気です。
一方、2022年2月時点で、近鉄・南海がどの様にIRと関わるのかイマイチ見えてきません。
近鉄・南海に関して言えば、「夢洲IR開業を目標として鉄道路線の新線建設」は難しいです。バス輸送での夢洲アクセスを整備することが可能性としてはあり得るかもしれません。
ただし、時間的な制約を考えなければ、数十年単位の超長期的なスパンで見た時に、「大阪府南部(特に関西国際空港)と夢洲」や「奈良・三重・中京方面と夢洲」を鉄道路線で結ぶ計画が動き出しても不思議ではありません。
編集後記
IR関連の再開発や新線開業は楽しみね😺✨
関連リンク
大阪IR株式会社の情報|国税庁法人番号公表サイト
「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」(案)【概要版】|大阪府、大阪市、MGM・オリックス コンソーシアム
大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画(案)【本体】 |大阪府、大阪市、MGM・オリックス コンソーシアム
夢洲への鉄道アクセスの技術的検討について|大阪府
夢洲まちづくり構想(案)について|大阪府・大阪市IR推進局
長期経営戦略 京阪グループ長期戦略構想における位置づけ|京阪ホールディングス
変貌なるか夢洲 京阪、京都に直通 近鉄、海遊館移転 IR・万博誘致にらむ 再開発を検討|日本経済新聞(2017年7月21日)
「近鉄グループ中期経営計画2024」|近鉄グループホールディングス
南海グループ経営ビジョン2027 新中期経営計画「共創136計画」|南海電気鉄道
南海グループ 次期経営計画について|南海電気鉄道
大阪IR導入で延伸予定の鉄道3路線まとめ|鉄道プレス(個人サイト様)