昔の車両には戸袋窓が備わっている車両が珍しくはありませんでした。
戸袋窓は、車外からの日光を取り入れ、車内を明るくするという役割を担っていました。しかし、時代が進むにつれて技術の進歩は著しく、鉄道の車内で使用されている照明の性能は向上しました。特にLED照明を取り入れたことにより、一部例外を除いて、戸袋窓が備わっている車両が新造されなくなり、戸袋窓を有していた車両は、改造工事によって、戸袋窓の構造を撤去しています。
今回紹介する西武9000系も、登場時には戸袋窓がありましたが、戸袋窓の構造を撤去せず、窓部分を埋めるという選択をしました。
埋められた戸袋窓
西武9000系の乗降ドアの隣には、何やら不思議な跡があります。元々、窓があった部分、いわゆる戸袋窓の部分ですが、更新工事によって窓ガラスが取り外されています。
外から見ると、ちょっとだけ異様な光景に見えますが、車内から見るとこんな感じ。
窓を埋めた痕跡があるのがわかります。ついでに言うと、表示幕の種別部分も埋まってますね。
そして車外と車内の戸袋窓はこんな感じです。
外側からは埋められた痕跡があり、内側からは、窓枠部分が金属枠で囲われて、ミッチリと化粧板で埋められてます。
何で戸袋窓が埋められたの?
何故、西武9000系の戸袋窓が埋められたのでしょうか。その理由は3つあります。
- 広告枠の確保
- メンテナンス時の負担軽減
- 工事費用がかかる
これは西武9000系特有の事情ではなく、鉄道車両において、上記3つの理由で、戸袋窓が埋められる、もしくは、戸袋窓が無い状態で製造されることがほとんどです。
広告枠の確保
戸袋窓が埋められる理由としては、広告枠の確保です。もちろん、戸袋窓にステッカー広告(シール型の広告)を貼ることも可能ですが、サイズが小さく、大型でインパクトのある広告を掲載することが出来ません。
また、戸袋窓に貼るステッカー広告は、貼り替えにも手間がかかるため、月単位での広告出稿が前提になっています。ポスター型の広告になると、週単位での短期出稿が可能です。
ポスター型の広告だと、例えば、競馬のG1レースの広告。春になると、G1レースのポスターが毎週の様に変わってると気づく方も多いのではないでしょうか。日本中央競馬会(JRA)では春になると4月1週目の大阪杯から、6月4週目の宝塚記念まで、G1レースが毎週の様に続きます1。
JRAを例にあげましたが、毎週のように短いスパンで広告を変えたい場合は、ポスター型の広告の方が使いやすいです。鉄道会社としても、短期の広告の方が掲載料が高く、多くの広告収入を得ることが出来ます。
広告タイプ | 交換サイクル | 交換の手間 | サイズ | 掲載料 |
ステッカー広告 | 長期 | 手間がかかる | 小さい | 安い |
ポスター広告 | 短期 | 簡単 | 大きい | 高い |
ちょっと広告の話に逸れてしまいましたが、インパクトのある大型の広告を、短期で出せるというメリットがあるので、戸袋窓を埋めて、短期のポスター広告枠に使用した方が、鉄道会社と広告主にとってメリットがあります。
メンテナンス時の負担軽減
戸袋窓が埋められた理由の2つ目は、メンテナンスの問題です。
1ドアあたり2つの戸袋窓ですから、4ドアであれば、1両当たり2×4(ドア)×2(両サイド)=16か所の戸袋窓が存在します。
車両点検時には、戸袋窓の点検(車外と車内の窓の間の点検)のために、戸袋窓を取り外す必要がありますので、それだけでも手間がかかります。また、通常清掃時に、戸袋窓なしの車両よりも、窓が16か所多いので、清掃負担がかかります。10両編成だと160か所の差ですので、かなりの負担です。
鉄道趣味的には戸袋窓のような特殊な窓が存在することは、特徴の一つとして取り上げられることがしばしばあります。しかし、実務においては、メンテナンス工程で少なからず負担がかかるのが実情です。
製造費用がかかる
西武9000系の場合は戸袋窓の構造を残して、戸袋窓を埋めるという手段を取りました。
戸袋窓を無くす場合、
- 機構そのものを撤去する
- 戸袋窓を埋める
の2パターンとなります。機構そのものを撤去する場合、大掛かりな改造工事が発生するため、工事費用がかかります。そのため、戸袋窓を埋めたほうがコスト的に安上がりになります。
また、構造自体を変えると、工事期間もかかるため、長期の運用離脱にもなります。そのため、戸袋窓を埋めるという選択肢しか残っていなかったのかもしれません(じゃあ何で新2000系の更新工事で戸袋窓の機構を廃止したのかという謎は残りますが…)。
編集後記
戸袋窓を備えている車両が減っている状況ですが、完全に消滅した、という訳ではありません。今も、細々と生き残っています。ちなみに、2019年から製造されている京成3100形は戸袋窓アリで製造されています。
とは言え、戸袋窓という機構が絶滅危惧種には変わりないので、注目して探してみるのも、鉄道趣味の一つの楽しみ方だと思います。
関連リンク
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小田急の車両はなぜ戸袋窓を埋めずに残しているのか|Odapedia(個人サイト様)