阪急神戸線・宝塚線の車両は阪急京都線に入れますが、その逆、阪急京都線の車両は神戸線・宝塚線に入ることが出来ません。
京都線の車両が神戸線・宝塚線に入れない直接的な原因は「京都線と神戸線・宝塚線で車両規格・建築限界が異なる」ということなのですが、もう少し深く掘り下げると2つの理由があります。
京都線車両が神戸線・宝塚線に入れない原因
阪急京都線の車両が阪急神戸線・阪急宝塚線に入れない原因は2つあります。
- 車両規格の差異
- 中津駅の改修工事が不可能に近い
京都線と神戸線・宝塚線で車両規格が異なるのは有名な話です。
加えて、大阪梅田~十三間の神戸線・宝塚線に存在する中津駅が京都線車両乗り入れを阻んでいます。中津駅ホームが狭すぎて、京都線車両が入れるための改修工事が不可能に近いからです。
車両規格の差異
少しだけ大きい京都線の車両
阪急神戸線・宝塚線は阪急生え抜きの路線ですが、阪急京都線は元を辿ると新京阪鉄道と北大阪電気鉄道がルーツとなっています。神宝線と京都線の成立経緯の違いから、現在も神宝線と京都線で車両規格が異なります。京都線を走る車両は、神戸線・宝塚線の車両よりも少しだけ大きいのです。
神宝線 | 京都線 | ||||
形式 | 全幅 | 全長 | 形式 | 全幅 | 全長 |
– | – | – | 3300系(京都線) | 2,809 mm | 18,900 mm |
5000系(神宝線) | 2,750 mm | 19,000 mm | 5300系(京都線) | 2,809 mm | 18,900 mm |
5100系(宝塚線) | 2,750 mm | 19,000 mm | |||
6000系(神宝線) | 2,750 mm | 19,000 mm | 6300系(京都線) | 2,850 mm | 19,000 mm |
7000系(神宝線) | 2,750 mm | 19,000 mm | 7300系(京都線) | 2,800 mm | 18,900 mm |
8000系(神宝線) | 2,750 mm | 19,000 mm | 8300系(京都線) | 2,850 mm | 18,900 mm |
9000系(神宝線) | 2,750 mm | 19,000 mm | 9300系(京都線) | 2,800 mm | 18,900 mm |
1000系(神宝線) | 2,770 mm | 19,000 mm | 1300系(京都線) | 2,825 mm | 18,900 mm |
上の表は神宝線・京都線で現役の形式の全幅と全長を並べたものです。京都線では、神宝線よりも全幅が少しだけ広い車両を使用しています。
京都線車両のうち、7300系・9300系・1300系で少しだけスリムになっています。これは、神宝線の車両限界拡張工事後に、直通可能な寸法で設計されているからです。
もちろん、現状の車両限界で京都線の車両が神宝線に入ると、駅によっては、ガリガリガリと音を立てて身を削ることになります。
堺筋線との乗り入れ規格
実は、一時期、京都線と神戸線・宝塚線で同じ規格の車両が存在していました。
1950年に登場した阪急810系(神戸線・宝塚線用)と阪急710系(京都線用)の全幅は2,750mmで共通です。神京・京宝特急として京都線と神戸線、もしくは京都線と宝塚線を直通する特急の運用に就いていた時期もあります。
他にも、京都線の2300系が神戸線に所属していた時期もあり、京都線の車両が神戸線・宝塚線を走る時期はあったのです。
しかし、大阪市営地下鉄(現大阪メトロ)堺筋線と相互直通の開始に伴い、車両規格を堺筋線と協議することになります。紆余曲折あって、京都線の3300系以降、京都線の車両は堺筋線への乗り入れ前提とする規格で設計・製造されたため、京都線車両が神戸線・宝塚線に入ることが出来なくなり、現在に至ります。
中津駅の改修工事が不可能に近い
かつて、「車両が入れないのであれば、ホームを広くすればいいじゃないか!」というアイデアもありました。
つまり、神戸線・宝塚線のホームを少し削ったり、信号機などの運行に必要な建築物を少し移動させて、京都線の車両が入れるようにするのです。なるほど、車両限界を超えるなら建築限界を緩和すれば良いと。確かに、その方法なら京都線車両が入ることが出来ます。
しかし、それもダメでした。その原因は中津駅です。
とんでもなく狭い島式ホームで有名な中津駅。実際のホームを見てみましょう。
狭いです。特に黄色い点字ブロックの間が狭い。ほとんどの人が「黄色い点字ブロックの内側まで…」というアナウンスを聞いたことがあると思いますが、大人1人がギリギリ入れる幅です。
作業自体は「削るだけ」なのですが、ホームを削るための準備が必要です。工事のための機材・資材を置くスペースはもちろん必要なのですが、何より、作業スペースが必要です。しかし、そんなスペースはありません。
隣には国道176号線があり、自動車がガンガン走っています。何とか交渉して176号線の一部を工事スペースとして確保するにも、それが出来そうなのは神戸線の中津駅だけ。
宝塚線は三複線の真ん中にあり、神戸線と京都線に挟まれているため、どうしようもないです。営業終了後、夜なべをしてヤスリでホームを削る…という稚拙な発想が出てしまいそうですが、そうなると工期と工数がとんでもないことになります。流石にそれはナンセンスです。
幻となるのか?
さて、こうなると京都線の現役形式では、神宝線直通が不可能になります。7300系で神宝線直通を試みるために全幅をギリギリの2,800mmまで減らしましたが、8300系では諦めて2,850mmになっています。
ただ、9300系では全幅を2,800mmに、1300系では更にギリギリの2,825mmまで絞っているので、諦めてはいないことが分かります。状況証拠だけ見れば、1300系が堺筋線に乗り入れしているので、全幅2,825mmというのが、堺筋線乗り入れOKかつ、神宝線直通対応可能な全幅です。
となると、やはり後は中津駅だけになります。中津駅というラスボスをクリアすれば、かつての神宝京直通列車が定期運用として実現するかもしれません。
編集後記
京都線の車両で神宝京直通が定期運用になればワクワクですが、なにわ筋連絡線や新大阪連絡線というビッグプロジェクトが控えているので、後回しになりそうですね😿
関連リンク
【ここまで揉める?】堺筋線vs阪急、苦闘の相直バトル|Osaka-Subway.com(個人サイト様)
参考資料
『阪急電車』山口益生著 JTBパブリッシング
『鉄道ピクトリアル No.837 2010年8月臨時増刊号 【特集】阪急電鉄』 株式会社電気車研究会