阪急6300系。京都線の特急運用を目的として設計され、長らく、阪急のエースとして君臨していました。
2800系の後継としての2ドアクロスシートに加え、屋根上のアイボリー、貫通扉と標識灯・尾灯のステンレス飾りなど、従来の阪急車両とは一線を画すデザインは、阪急の高級感を更に引き上げたと言っても過言ではありません。
…が、この6300系、阪急では珍しく、登場から40年満たずに、京都本線から追い出されてしまいました。
阪急6300系の役割
阪急6300系は、特急運用を主としていた2800系の後継として1975年に登場しました。
先頭車両の乗務員室後方以外は全席クロスシートで、ゴールデンオリーブ色の段織モケット、シート上部にホワイトのレザーカバーを纏っており、しかもこれが乗車券だけで乗れるという、阪急の本気を集めた車両です。
1976年には阪急で初めて、鉄道友の会のブルーリボン賞を受賞1するなど、そのデビューは華々しいものでした。
6300系の役割としては、梅田~河原町のノンストップ特急。大阪から京都の移動を、クロスシートでゆったりと、そしてノンストップで移動するという役割を背負っていた2800系の後継を担います。
阪急の中でも名車と名高い6300系は、パンフレットや趣味雑誌の表紙を飾るなどのアイドル性も高く、阪急のエースとして君臨します。
…が、その結果、登場から40年もしないうちに、京都線から追い出されてしまいました。
京都線をクビになった理由
6300系が京都線から追い出された理由は、大きくは3つです。
- 2ドアクロスシートと停車駅の多さ
- ドア位置の違い
- スピードアップ対応
それぞれの理由を見て行きましょう。
2ドアクロスシートと停車駅の多さ
特急運用目的で設計された6300系が登場後、もちろん、京都線の特急を中心とした運用に就いていました。
しかし、2001年のダイヤ改正で2ドアクロスシートであるがゆえに、6300系がネックになってしまいます。それは、停車駅の増加です。
2001年のダイヤ改正前までは、停車駅が、十三・高槻市・大宮・烏丸の4駅でしたが、十三・茨木市・高槻市・長岡天神・桂・烏丸の6駅に増加。停車駅を増やすことによって、利用客のアップを狙います。
更に、2007年のダイヤ改正で、特急が淡路停車することになり、十三・淡路・茨木市・高槻市・長岡天神・桂・烏丸の7駅停車に変更。これにより、特急が、2001年ダイヤ改正前の急行とほぼ変わらない状態になります2。
一見すると、停車駅を増やすことで梅田~河原町の所要時間が増えて、競合するJRに対して不利に見えますが、停車時間を減らすことで梅田~河原町の所要時間を出来るだけ変えない方針とします。
その結果、6300系が邪魔になりました。
…何が起こったかと言うと、2ドアクロスシートで乗降に時間がかかるにも関わらず、停車時間を減らしています。もうお察しと思いますが、遅延が発生します。
そもそも、2ドアクロスシートの場合、乗降ドアに乗客が殺到することや、ドア間の通路の客が降車する際に時間がかかり、停車時間が想定より増えてしまいます。それが引き金になり、遅延に繋がるということがしばしばありました。
ドア位置の違い
2ドアクロスシートと、戦略上の都合によって遅延を引き起こしてしまうことになった6300系。しかし、もうひとつ、6300系が京都線から追い出されることになった原因があります。
それはドア位置の違いです。
阪急の3ドア車と6300系では車端部のドア位置が異なっています。何が問題かというと、ホームドアの設置です。
バリアフリー対応の一つとしてホームドアの設置がありますが、ホームドア設置で肝となるのは車両のドア位置です。
参考に6300系と8000系の車端部の写真を用意しました。まずは8300系。
阪急を利用される方は見慣れていると思いますが、車端部には窓があります。8000系・8300系以前と9000系・9300系以降で、車端部の窓の枚数が違ったりしますが、ドア位置はほぼ同じ。
そして6300系。
一目見て分かると思いますが、車端部に窓がありません。ドアが端っこにあります。
こうなると大変で、京成の日暮里駅のような、非常に巨大なホームドアを設置する必要があります3。
仮に、2ドア車であっても京急2100形の様な3ドア車とドア位置がほぼ同じであれば、ホームドアの制御仕様を変えるだけで解決します4。
将来的なホームドア設置において、6300系が京都線に居座り続けると、京都線だけ6300系に合わせた特別仕様のホームドア設置になってしまいます。そうなると、初期費用はもちろん、保守費用もかかります。
つまり、6300系が邪魔になってしまいます。
スピードアップ対応
京都線の特急は、ダイヤ改正による停車駅増加を、停車時間削減という荒業で所要時間の相殺していました。しかし、それも限界があることから、抜本的な輸送力増強を目指して、2010年のダイヤ改正を目途に、最高速度の引き上げを計画しました。
それまで、特急の最高速度を110km/hに設定して営業していましたが、ATSの改良工事を行い、115km/hでの運行を可能にする計画です。
しかし、ここでも6300系がネックになります。何故なら、6300系の最高速度は110km/hだから。
特急運用に就いていた7300系以降の車両は115km/h運転に対応しているため、阪急のエースともあろう6300系が完全にお荷物状態。
そんなわけで、9300系を増備して6300系を置き換え、所要時間の短縮を目指します。
そして嵐山線へ…
さて、遅延を発生させ、ホームドア設置を妨げの原因になり、スピードアップ対応のお荷物になるというフルコースを背負った阪急のエースは、2008年から廃車が発生します。
経営の戦略上、本来の目的とは違う運用に就くことになり、結果的に京都線から追い出された6300系ですが、全てを駆逐するという悪魔の所業は行われず、6354Fは京とれいんとしてリニューアル、6351F~6352Fは4両編成化リニューアルを行い、嵐山線で余生を過ごしています。
編集後記
せめて車端部のドア位置だけでも他形式と同じだったら、速度向上やブレーキ強化の改造工事を施して、今も京都線に残ってたかもしれませんね😺
参考文献
『鉄道ピクトリアル No.837 2010年8月臨時増刊号 【特集】阪急電鉄』 株式会社電気車研究会
『阪急電車』 JTBパブリッシング
関連リンク
京都線のダイヤ改正について(2009年12月9日リリース分)|阪急電鉄